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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1661号 判決 1949年3月17日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人上川義昭上告趣意第一點について。

しかし、裁判官ば、檢察官の求刑に拘束されるものでないこと言うを待たない。そして、訴訟手續上、裁判官は、所論のように檢察官の意見に拘束されない旨を明示しなければならない法律上の理由もなく又かかる趣旨の規定も存しないから、原裁判所が判決書に又は判決言渡の際かゝる明示をしなかったからとて何等の違法も存しない。所論は採るを得ない。

同第二點について。

しかし、刑事訴訟法は、刑罰法令を適正に適用実現することを目的とするものであるから、公判手續において、公訴權を有する檢察官に對し、證據調が終った後事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならないものと規定しているのである(舊刑訴第三四九條新刑訴第二九三條各第一項參照)。蓋し、刑罰法令は、罪刑法定主義に則り、豫め一定の犯罪構成要件とこれに科すべき刑罰の種類及び分量とを抽象的に規定したものであるから、具體的にこれが適用実現を審理する公判手續において、その適用実現を請求する檢察官は、單に抽象的な犯罪構成要件に該當する具體的な犯罪事実の存否に關する意見のみならず、該事実にして存在する限り、これに相當する法條を指摘し且該事実に妥當する具體的刑罰の種類及び分量に關する意見をも陳述するのが當然であって、かゝる具體的な刑罰に關する意見がすなわち法律の適用についての意見に屬するものであるからである。そして、訴訟法は獨り攻撃側に立つ檢察官に對してのみならず防御側に在る被告人及び辯護人に對しても亦た同一點について意見を陳述することができるものと規定しているのである(前記法條各第二項參照)。かくて、裁判官は、公判審理において、事実及び適用法條についてのみならず具體的刑罰の種類及び分量についても當事者雙方の忌憚なき意見を聞き、その良心に從い獨立して公平に職權を行うもので毫も當事者一方のみの意見に拘束されるものではないのである。されば原審における檢察官の求刑は正當であって何等の違法も存しない。所論は刑事訴訟法の目的、公訴權の作用等を正解しない論であるのみならず辯護權の本質をも忘却した見解であって採るを得ない。

よって舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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